風の瞑想
The meditation of the air

The croud over the top of the mountain©Mirai Matsuo

大気は移り変わる

 風は上空の大気の動きを表します。
 大気の動きは一定ではありませんが、地域ごとに、あるいは季節ごとに、周期的なリズムを作りだします。
 春は穏やかに光射す東の海から、夏には湿った熱を孕んだ南国の海から。秋には大陸の乾いた砂の匂いとともに、冬は凍てついた氷の大地を吹き抜けて……。
 あなたはこれから風になります。風になって、地球の上空へと舞い上がります。
 さあ目を閉じて、体のすみずみにまで風の動きを感じましょう。 

東の風

 東の風は春の風です。
 冷たい大地に柔らかな優しいぬくもりをもたらします。
 淡い穏やかな光とぬくもりが、あなたの体のすみずみに行き渡ります。
 ゆっくりと固い蕾がふくらんでいくように、あなたの体の芯もほどけていきます。 
 少しずつ花弁が開いていくように、あなたの体もほぐれていきます。
 深呼吸して、光に暖められた大気を筋肉や血管のすみずみに送り込みましょう。
 やがて、あなたの体は今度は逆にあなたが暖めた大地から生まれた命の息吹によって、ふわふわと舞い上がっていきます。そして、また冷え切った北の国へと暖かい空気を送るために旅立ちます。

南の風

 南の風は夏の風です。
 光り輝く太陽の熱を思う存分に吸い込んだ熱風は、南国の花とジャングルの匂いを運びます。
 活動的で情熱的で、燃え上がる炎の熱は、身体中の筋肉と血潮を燃えたぎらせ、心を燃やします。
 ツバメたちが高く舞い上がった空には、雷雲が湧き上がり、祭りの太鼓のリズムが大気を震わせます。
 あなたもまた、大地の熱とともに、上昇気流に乗り、 天高く昇って行きましょう。次第にあなたの体はくるくると回り始め、台風の目となり、何もかもを巻き込んで巨大な渦を作っていきます。そして、一直線に目標に向かって邁進していきます。
 さあ、ゆっくりと冷気が感じられてくるでしょう。何もかもを巻き込んで暴れまわった台風も、北の国にたどり着く前に、次第に渦を小さくしていきます。ゆっくりと深呼吸して、熱を冷ましていきましょう。

西の風

 西の風は秋の風です。
 はるかな西の国の乾いた砂の香りを乗せて、風は上空の雲を吹き飛ばします。
 黄昏時の夕陽と長い影法師は、これからやってくる長い夜を予測させ、動物たちに眠りのときがくることを伝えます。
 太陽はすでに沈もうとしており、真夏の時のような輝かしい光と熱は大地にわずかに残るばかりで、雲を吹き飛ばされた上空の大気には、夜の国の冷気が混じり始めます。
 木々の枝は冬ごもりのために黄や赤の古い葉を落とし、守らなければならない新しい命の出口を閉ざします。
 南国の鳥たちはすでに飛び立ち、北の国から別の鳥たちがこれからやってくる厳しい寒さをしのぐために舞い降ります。  長い雨に大地は熱を失い、大気は熱を急速に失います。
 朽ちた枯葉の中に、わずかな湿り気とぬくもりを残して、風は大地を乾かしていくのです。

北の風

 北の風は冬の風です。
 夜の冷気と凍てついた雪と氷の雲を北国から南の大地へと運びます。
 吹きすさぶブリザードは命ある者たちに厳しい試練を与えます。
 自らの力で命を守ることを、生き物たちは凍りつく寒さと飢えの中で知るのです。
 夜はまた命ある者たちが眠りに就くときでもあります。
 やがて来る目覚めのときに備えて、活動をやめ、仮死状態になることで、休息を取り、体力を回復させ、本当の死から身を守るときでもあります。
 冷たい大気はけっして死の風ではありません。休息の風なのです。

 

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